QC(Quality Control)は、直訳すれば品質管理です。何となくイメージが湧きますが、しかし、いざQC活動の話となると、グラフの書き方・見方の話だったり、あるい改善活動の話だったり、はては会社の方針管理の話だったりと、捉えどころがありません。そこで、QC検定等で触れられる「品質」や「QC」の考え方とその関連について、雑多な話題を誤解を恐れず書きたいと思います。また、身近な業務の問題を品質技術を使って解決する方法についても書きたいと思います。
製造業を想定した話題が多いと思いますが、考え方自体は特に業種を限ったものではないと思います。
品質の重要性
会社は製品やサービスを顧客に提供しています。提供される製品やサービスは顧客にとって良いもの(=良い品質のもの)でなければ、対価を払って利活用してもらえません。したがって、製品やサービスは、顧客にとって不満や不平がなく(これを当たり前品質と呼びます)、使ってみて満足し喜んでいただく(これを魅力的品質と呼びます)が重要になります。一言で言えば、「CS(Customer Satisfaction, 顧客満足度)が重要となります。
- 当たり前品質
- 魅力的品質
- CS, 顧客満足
品質(Quality)の対象
品質という言葉は、限定的な文脈(狭義)では、製品やサービスを対象にして、その製品やサービスが使用目的をどの程度満たしているかの程度を示しています。一言に「品質が良い」と言っても、質感が高かったり、デザインが良かったり、便利な機能があったり、操作が簡単だったり、長く使えたり、修理が簡単だったりと、様々なことが含まれます。
また、広い文脈(広義)で、様々な対象に品質という言葉を使うこともあります。その対象とは仕事や、情報、工程、部門、人、システムなどがあります。
- 狭義の対象:製品、サービス
- 広義の対象:仕事、情報、工程、部門、人、システム
品質(Quality)の段階
良い品質の製品やサービスを提供するには、よい品質とはどのようなものか定義し、実現することが重要になります。品質は大きく2段階で示されます。
良い品質とはどのようなものかを「品質特性」で、どの程度満たせばよいかを「品質規格(品質特性の規格値)」で示し、それを設計品質(ねらいの品質)と呼びます。次に、設計品質に対して、提供された製品やサービスがどの程度合致しているか(適合の品質)を合否や平均値、ばらつき等で示し、それを製造品質(できばえの品質)と呼びます。
- 設計品質(ねらいの品質)
- 製造品質(できばえの品質)
品質管理(Quality Control)
QC(品質管理)というと直訳的には適合の品質をチェックする業務のような印象を持ちますが、特定の業務を指すようなものではありません。「買い手の要求に合った品質の品物またはサービスを経済的に作り出すための手段の体系[JIS Z 8101:1981]」とされています。
QCの概念は時代とともに拡大してきました。1930年代は統計的手法を用い、製品やサービスのばらつきを抑え、不良品を低減することを目的にSQC(Statistical Quality Control, 統計的品質管理)の概念が広まりました。1960年代は、職場で協力し合いボトムアップで改善を行う(改善活動)により製品やサービスの顧客満足度の向上を図るTQC(Total Quality Control, 総合的品質管理)の概念が広まりました。会社の全ての職場で行う場合は、特にCWQC(Company-wide Quality Control, 全社的品質管理)と呼ばれることもあります。1990年代は、ボトムアップとトップダウンの融合により、経営品質の向上を図るTQM(Total Quality Management, 総合的品質経営)の概念が広まりました。
- SQC(統計的品質管理)
- TQC(総合的品質管理)
- TQM(総合的品質経営)
顧客と体験価値
お客様
顧客とは製品やサービスを購入する人だけではありません。製品で言えば、その製品の操作者や管理者、保守者、購入者や販売業者、受益者など様々な役割の組織や人を考慮しなければなりません。良い品質の製品とはそれぞれの役割で異なることになります。
また、QCの工程(プロセス)では、「後工程はお客様」と言い、中の人も顧客に見立てる概念もあります。
体験価値
UX(User Experience、体験価値)とは、「あるユーザーの個人的な体験」を表します。製品視点の品質ではなく、ユーザー視点の品質と捉えることもできます。品質モデル[ISO/IEC 25010]で捉えると利用時の品質に相当します。
UXデザインでは、どんな体験をしてもらうかを計画し、計画した体験を繰り返し提供できる仕組みを構築します。
QCの問題と課題
品質管理者やプロジェクトマネージャは、問題や課題を扱うことが多いですが、私の経験上、以下のように言葉の使われ方が微妙に異なります。
Project Management
分類 | 意味 | 例 |
---|---|---|
問題 | 好ましくない事象 | 発売延期 |
課題 | 解決すべき事象(問題を含む場合もある) | テスターの不足 |
リスク | 将来、課題となりうる事象 | 特定国への輸出禁止 |
Quality Control
分類 | 意味 | 例 |
---|---|---|
問題 | 既に起きている解決すべき好ましくない事象 | 特定操作で動作停止 |
課題 | 今後発生する達成すべき事象(好ましい場合もある) | どの国でも利用可能 |
リスク | 後述 |
QCでは、問題や課題を「あるべき姿」と「現状の姿」の品質の差として捉えます。あるべき姿とは、顧客が期待している製品やサービスの品質です。現状の姿とは実際に実現した品質です。この二つの差の大きさが品質問題の大きさと捉えます。
- 問題の大きさ:「あるべき姿」と「現状の姿」の品質の差
また、QCでは、プロジェクトマネジメントでリスクと呼ばれる事象も含めて「問題」と呼ぶ場合があります。あるべき姿が明確で、現状の姿との乖離を意識しなくてもわかる問題を「見える問題」と呼びます。あるべき姿が不明確なため、現状、まだ気づいていない問題を「探す問題」と呼びます。あるべき姿と将来の現状との間に表面化するであろう問題を「創る問題」と呼びます。
- 見える問題:過去に明確化されたあるべき姿と現状の姿の差により発生する問題
- 探す問題:これから明確化されるあるべき姿と現状の姿の差により発生する問題
- 創る問題:これから明確化されるあるべき姿と将来の姿の差により発生する問題
クレームと苦情
顧客の不平、不満をクレームもしくは苦情と呼びます。修理や交換、解約などを伴う場合を顕在クレームと呼びます。負の感情を抱かせる状態にある場合を潜在クレームと呼びます。苦情はクレームと同義の場合もありますが、対応費用の発生を伴う場合をクレーム、対応費用の発生を伴わない場合を苦情と使い分ける場合もあります。